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2026年10月9日 空き家・不動産

親が認知症になったら実家はどう売る?2026年成立の成年後見の改正と施行前の注意点

親が認知症になって施設に入り、実家が空き家になった。施設の費用もかかるので、家を売ってそれに充てたい。そう考えても、ご本人が売買の内容を理解できない状態だと、ご家族が代わりに契約することはできません。

これまでは家庭裁判所に成年後見人を選んでもらう方法が中心でしたが、売却のために後見を始めると、売り終わった後も原則としてやめられません。この仕組みが、2026年6月に成立した改正法で見直されました。ただし新しい制度を使えるのは施行日からで、その日はまだ決まっていません。ここでは、実家の売却と相続の手続きにかかわるところを取り上げます。

先にお伝えしたいこと

  • 後見と保佐はなくなり、「補助」に一本化されます。実家の売却や遺産分割など、必要なことに限って補助人に代理権を付ける形です。
  • 必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば、判断能力が戻っていなくても終えることができます。
  • ただし、補助人が親に代わって親の住まいを売るときは、今の成年後見人と同じく家庭裁判所の許可が要ります。成年後見の部分はまだ施行されておらず、2026年10月時点で施行日も決まっていません。

2026年6月に成立した成年後見の見直し

正式な名前は「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)です。2026年6月17日に成立し、6月24日に公布されました。同じ法律で遺言の制度も見直されていますが、この記事では成年後見の部分を扱います。

今の法定後見は、判断能力の程度によって「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれ、どれを使うかが画一的に決まります。判断能力を欠く常況にあると認められると「後見」になり、成年後見人が財産全般について本人に代わって契約します。本人がした契約も、日用品の買い物など日常生活に関するものを除いて、取り消すことができます。

改正法は、このうち後見と保佐を廃止して、補助に一本化します。法務省の資料は、見直しの内容として、本人にとって必要な範囲・期間で制度を使えるようにすることや、本人の自己決定をより尊重することなどを挙げています。

成年後見の部分は「公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」に施行されることになっていて、2026年10月時点では、その日付は公表されていません。公布日から数えると、遅くとも2028年12月までには始まる計算です。

施行までは今の制度です

改正法が成立していても、成年後見の部分が施行されるまでは、今の後見・保佐・補助の制度で手続きをします。新しい補助の仕組みを使えるのは、施行日からです。

今の制度で実家を売る場合

不動産の売買の決済では、登記を担当する司法書士が売主ご本人にお会いして、本人確認と、売る意思の確認をします。ご家族から「本人も納得しています」と言われても、ご本人が売買の内容を理解できていないと判断すれば、そのまま登記の手続きを進めることはできません。

その場合、今の制度では家庭裁判所に申し立てて成年後見人などを選んでもらい、その人が本人に代わって売ることになります。ただ、今の制度には使いにくいところがあります。判断能力を欠く常況にあると認められると、使えるのは後見だけです。目的が実家の売却だけでも、成年後見人が財産全体を管理することになり、売却が済んでも、判断能力が回復しない限り後見や保佐は終わりません。成年後見人などの交代も簡単ではありません。法務省も、こうした点を今回の見直しの理由に挙げています。

もう一つ、親の住まい(居住の用に供する建物やその敷地)を売ったり貸したりするには、成年後見人であっても家庭裁判所の許可が要ります(民法859条の3)。裁判所の説明では、今は病院や施設に入っていて住んでいなくても、入所前に住んでいた家や、将来住む可能性がある家もこれに含まれます。施設に入っていて空いている実家も、許可が要るものと考えてください。許可を得ずに売った場合、その売却は無効になります。売却の段取りを組むときは、この許可の手続きの分も時間をみておいてください。

改正後、実家の売却はこう変わる

必要なことだけを補助人に任せる

改正後は、判断能力が十分でない方はみな「補助」の対象になります。補助を始めるには、判断能力が不十分であること、本人の同意、制度を使う必要があることが求められます。そのうえで家庭裁判所が、特定の行為について補助人に代理権を付けたり、補助人の同意が要る行為を決めたりします(改正後の民法7条・9条・11条)。

実家を売るのが目的なら、補助開始とあわせて、その売却についての代理権を補助人に付けるよう申し立てることになります。法務省の説明資料には、遺産分割の代理権を付ける例が載っています。

家族などが申し立てるときは、原則として本人の同意が要ります。本人が意思を表示できない状態であれば、同意がなくても申し立てられます(改正後の民法7条2項・11条2項)。

用が済んだら終えられる

実務への影響が大きいのはここです。改正後は、家庭裁判所が「もう必要がない」と認めれば、判断能力が戻っていなくても、代理権を付けた審判などを取り消せます。全部取り消せば、補助そのものが終わります(改正後の民法12条)。法務省の資料では、補助人が年に1回、家庭裁判所に本人の状況を報告する際に、家庭裁判所が職権で終わらせることもできるとされています。

売るために補助を始め、売り終えたら終わりにする。改正後は、制度の上でそれができるようになります。ただ、売却代金の管理など、売った後も支援が要る事情があれば、終了は認められないかもしれません。

親の住まいを売るときの許可は、これまでどおり

誤解されやすいところなので、はっきり書いておきます。改正後も、本人の住まい(居住の用に供する建物又はその敷地)を売る、貸す、賃貸借を解除する、抵当権を付ける、といったときは、代理権を付けられた補助人が家庭裁判所の許可を得なければなりません(改正後の民法876条の13)。代理権があれば自由に売れる、というわけではありません。改正後の条文も「居住の用に供する建物又はその敷地」という、今と同じ言葉を使っています。

判断能力を欠く常況にある方には「特定補助」も

判断能力を欠く常況にあると認められる方については、「特定補助」という仕組みを選ぶこともできます。不動産に関する権利の得喪を目的とする行為など、法律が定める重要な財産上の行為を本人がしてしまったときに、それを取り消せるようにするものです(改正後の民法10条)。ただ、特定補助人にできるのは、そうした行為の取消しや、本人あての意思表示の受け取り、財産の保存行為です(同条5項)。実家を売るには、これとは別に、売却について補助人に代理権を付ける審判(改正後の民法11条)が要ります。

項目今の制度改正後(施行後)
使う類型判断能力の程度で、後見・保佐・補助のどれかに決まる補助に一本化(判断能力を欠く常況の方は特定補助も選べる)
任せる範囲後見では財産全般必要な行為を個別に決める
やめられるか後見・保佐は、判断能力が回復しない限りやめられない必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば終えられる
親の住まいの売却など家庭裁判所の許可が要る(民法859条の3)家庭裁判所の許可が要る(改正後の民法876条の13)
支援者の交代解任の理由は、不正な行為や著しい不行跡など支援者側の事情に限られる「本人の利益のため特に必要があるとき」も解任できる(改正後の民法876条の5)

相続人に認知症の方がいるとき

相続でも事情は同じです。遺産分割協議は相続人全員でしなければならないので、相続人の一人が認知症で協議の内容を理解できない場合、今の制度では成年後見人などを選んで協議に加わってもらうのが一般的です。分割が終わっても、後見は続きます。

改正後は、遺産分割について補助人に代理権を付け、分割が済んで必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば、補助を終えられます。ただし、補助人になった家族自身も相続人である場合のように、補助人と本人の利益がぶつかるときは、補助監督人がいる場合を除いて、家庭裁判所に臨時補助人の選任を請求することになります(改正後の民法876条の14)。

あわせて気をつけたいのが、相続登記の期限です。2024年4月1日から相続登記は義務になり、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければなりません(2024年4月1日より前に相続したことを知っていた不動産は、2027年3月31日まで)。遺産分割がまとまらないうちは、期限内に相続人申告登記をしておけば、申し出た相続人はこの義務を果たしたことになります(不動産登記法76条の3)。その後に遺産分割がまとまったら、その不動産を取得した人が、分割の日から3年以内に、その内容に沿った登記を申請します。施行を待つうちに期限を過ぎてしまわないよう、早めに確認してください。義務化については相続登記の義務化について知っておくべきことで詳しく書いています。

施行を待つか、今の制度で進めるか

施設や入院の費用がかかり続けている、空き家の管理や固定資産税が負担になっている、建物の傷みが進んでいる、買いたいという人が今いる。こうした事情があるなら、施行を待たずに今の制度で進めることを考えてよい場面です。施行日はまだ決まっておらず、遅ければ2028年12月まで待つことになります。

改正法には、施行前から使っている後見・保佐の扱いを定めた経過措置もあります。施行前に始まった後見・保佐は、基本的には今の内容のまま続きます。そのうえで施行後は、新しい補助の申立てをして切り替えたり、後見・保佐開始の審判の取消しを申し立てたりできます。申し立てられるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、成年後見人などで、取り消すかどうかは家庭裁判所が判断します(改正法附則2条・3条)。施行日より前に後見・保佐開始を申し立てて、施行日より前に審判が確定していない場合は、施行日以後は新しい補助開始の申立てとして扱われます(改正法附則2条8項・3条3項)。

いま後見を始めると、ずっとやめられないのではないか。この心配については、施行後であれば取消しを申し立てる道があります。迷ったら一度ご相談ください。空き家のまま持ち続けるリスクは空き家の放置リスクと管理・売却の判断基準に、売却の流れは相続した不動産を売却するまでの流れにまとめています。

親が元気なうちにできること

ご本人の判断能力がしっかりしているうちなら、選べる方法が増えます。

一つは任意後見契約です。将来に備えて、信頼できる人と、財産の管理などを任せる契約を公正証書で結んでおきます。任意後見人ができるのは契約で任せた事務に限られるので、実家の売却まで任せたいなら、そのことを契約に入れておく必要があります。今回の改正では任意後見も見直され、任意後見監督人による監督が明らかに必要ないと家庭裁判所が認める場合は、監督人を選ばずに、家庭裁判所が直接監督できるようになります(施行後)。

家族信託(民事信託)という方法もあります。実家などを信頼できる家族に託して、管理や売却を任せておくもので、信託の内容によっては、ご本人の判断能力が落ちた後も、託された家族が売却まで進められます。

遺言も備えになります。たとえば両親のどちらかが先に亡くなり、残された親が認知症という場合でも、亡くなった親が自宅を誰が相続するかを遺言で決めてあれば、その自宅については遺産分割協議をしなくても相続登記ができます。

当事務所の民事信託、終活サポートのページもあわせてご覧ください。

よくあるご質問

Q. 新しい制度は、いつから使えますか?

A. まだ決まっていません。成年後見の部分は、公布日(2026年6月24日)から2年6か月を超えない範囲で、政令で定める日に施行されます。施行までは今の制度で手続きをします。

Q. 後見は一度始めたら、一生続くと聞きました。

A. 今の制度では、判断能力が回復しない限り後見はやめられません。ただ、改正法の経過措置で、施行後は本人・配偶者・四親等内の親族・成年後見人などが、後見開始の審判の取消しや、新しい補助への切り替えを申し立てられるようになります。取り消すかどうかは家庭裁判所が判断します。

Q. 新しい制度になれば、裁判所の許可なしで親の家を売れますか?

A. 補助人が親に代わって売る場合は、許可がなければ売れません。親の住まい(居住の用に供する建物やその敷地)を売る代理権を付けられた補助人は、改正後も家庭裁判所の許可を得なければなりません(改正後の民法876条の13)。今の制度では、施設に入る前に住んでいた家もこれに当たるものとして扱われています。

Q. 親が嫌がっていたら、補助は始められませんか?

A. 原則として始められません。家族などが申し立てるときは、補助を始めるにも、補助人に代理権を付けるにも、本人の同意が必要です。同意がなくても進められるのは、本人が意思を表示できない状態にある場合に限られます(改正後の民法7条2項・11条2項)。

Q. 認知症と診断されたら、実家はもう売れませんか?

A. 診断名だけでは決まりません。売買の内容を理解して判断できるかどうかが問題です。判断能力が保たれていれば、ご本人が売主として売れることもあります。難しい場合は、今の制度では成年後見などの利用を考えることになります。

最後に

今回の改正で、成年後見は「必要なことに限って使い、必要がなくなったら終える」仕組みに変わります。実家の売却や、認知症の相続人がいる遺産分割では、目的に合った使い方がしやすくなるはずです。一方で、補助人が親に代わって住まいを売るときも、これまでどおり家庭裁判所の許可が要ること、そして施行日がまだ決まっていないことは押さえておいてください。

この記事は、2026年10月9日時点の法令と、法務省・国会・裁判所の公表資料をもとに書いています。施行日などはこれから政令で決まりますので、最新の情報は法務省のウェブサイトでもご確認ください。

当事務所は、相続登記、遺産分割協議書の作成、不動産の名義変更を担当し、任意後見契約の締結もお手伝いしています。グループ会社のめんたいこ不動産と連携して、査定から売却まで一つの窓口でご相談いただけます。「今の制度で進めるか、施行を待つか」という段取りの相談だけでも構いません。無料の相続AI診断(約3分・匿名)でご状況を整理していただくか、お問い合わせフォームからご連絡ください。福岡県古賀市・福岡市周辺はもちろん、全国オンライン対応・初回相談無料です(TEL 092-688-2169)。