相続した不動産を売却する流れ|相続登記から引き渡しまでの期間と費用を司法書士が解説
親から相続した実家や土地について「管理も大変だし、思い切って売ってしまいたい」と不動産会社に相談したところ、「まず名義を変えてこないとお預かりできません」と言われて戸惑った——そんなご相談は少なくありません。相続した不動産の売却は、いきなり売りに出せるものではないのです。
相続不動産の売却は、「相続登記で名義を相続人に移す」→「売却する」という二段構えになります。本記事では、全体の流れを5ステップに整理し、それぞれにかかる期間の目安、費用の内訳、そしてつまずきやすいポイントまで、福岡・古賀市の司法書士が実務の視点で解説します。
この記事の要点(先に結論)
- 亡くなった方の名義のままでは売却できない。まず相続登記で相続人名義に移すのが第一歩
- 相続登記は2024年4月1日から義務化。取得を知った日から3年以内、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象
- 相続人の確定 → 相続登記 → 査定・媒介契約 → 売買契約 → 決済・引き渡しで、全体で通常3〜6か月程度
- 「とりあえず共有名義」は売却時に共有者全員の同意が必要になり、最大のつまずきポイントになりやすい
なぜ「相続登記 → 売却」の順番になるのか
不動産の売買では、売主は「自分がその不動産の所有者である」ことを登記簿で示す必要があります。登記名義が亡くなった方(被相続人)のままだと、買主も、買主に融資する金融機関も安心して取引ができません。実務上、決済(残代金の支払いと所有権移転登記)まで進めることはできず、売却の前提として相続登記が必須になります。
加えて、2024年(令和6年)4月1日から相続登記の申請は義務になりました。相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければならず、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の適用対象となります。施行日より前に発生した相続も対象で、その場合の期限は2027年(令和9年)3月31日までです。制度の詳細は相続登記の義務化に関する記事で解説しています。
つまり、売る・売らないにかかわらず相続登記はいずれ必要になります。売却を考えているなら、その相続登記を「売却の準備」として前倒しで済ませてしまうのが合理的ということです。
相続した不動産を売るまでの5ステップと期間の目安
| ステップ | 主な内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| ①相続人・遺産の確定 | 戸籍の収集、相続財産の調査、遺産分割協議・協議書の作成 | 1〜3か月 |
| ②相続登記 | 法務局へ申請し、名義を相続人に移す | 書類が揃ってから2〜3週間程度 |
| ③査定・媒介契約 | 不動産会社の査定、売出価格の決定、媒介契約の締結 | 1〜2週間 |
| ④販売活動・売買契約 | 広告・内覧対応、条件交渉、契約締結・手付金の受領 | 1〜3か月(物件により変動) |
| ⑤決済・引き渡し | 残代金の受領、抵当権抹消、所有権移転登記、鍵の引き渡し | 契約から1〜2か月 |
順調に進んだ場合でおおむね3〜6か月というのが一つの目安です。ただしこれは「相続人がすぐに確定し、遺産分割がスムーズにまとまり、買主も比較的早く見つかった場合」の話で、後述するつまずきが1つでもあると半年〜1年以上かかることも珍しくありません。
ステップ①〜②:売主になるための準備
最初にやるべきは相続人の確定です。被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍を集め、法律上の相続人が誰かを漏れなく確定させます(戸籍の集め方はこちら)。そのうえで、遺言書がなければ相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がその不動産を取得するかを決めて遺産分割協議書にまとめます。ここが最も時間のかかる工程です。
遺産分割がまとまったら、協議書・戸籍一式・固定資産評価証明書などを添えて法務局に相続登記を申請します。申請自体は、書類が揃っていれば完了までおおむね2〜3週間程度です。
ステップ③〜⑤:売却して引き渡すまで
名義が移ったら、不動産会社に査定を依頼し、売出価格を決めて媒介契約を結びます。販売活動を経て買主が決まれば売買契約を締結し、通常は1〜2か月後に決済です。決済日には、買主から残代金を受け取ると同時に、司法書士が所有権移転登記(と、住宅ローンが残っていた場合の抵当権抹消登記)を確認・申請し、鍵と書類を引き渡して完了となります。
売却にかかる費用の内訳
「相続登記でかかる費用」と「売却でかかる費用」は別物です。両方を合わせて見ておくと、手元に残る金額のイメージがつかみやすくなります。
| 費目 | 目安・計算方法 |
|---|---|
| 登録免許税(相続登記) | 固定資産税評価額 × 0.4%(不動産の価額が100万円以下の土地は、2027年3月31日までの登記について免税の措置があります) |
| 司法書士報酬(相続登記) | 事務所により異なります。戸籍収集や遺産分割協議書の作成まで含むかどうかで変動します |
| 戸籍・証明書の取得費用 | 1通数百円程度の実費。相続関係が複雑なほど通数が増えます |
| 抵当権抹消の登録免許税 | 不動産1個につき1,000円(1件の申請で20個以上の場合は2万円) |
| 仲介手数料 | 売買価格400万円超なら「価格×3%+6万円」+消費税が上限 |
| 印紙税(売買契約書) | 軽減措置により、1,000万円超5,000万円以下で1万円、500万円超1,000万円以下で5,000円など(2027年3月31日までに作成される契約書) |
| 譲渡所得税・住民税 | 売却益が出た場合に課税。詳しくは空き家売却の3,000万円特別控除の記事をご覧ください |
| 測量費・解体費など | 境界確定測量や建物の解体が必要な場合に発生。物件の状況により金額差が大きい項目です |
仲介手数料の上限は、200万円以下の部分5%・200万円超400万円以下の部分4%・400万円超の部分3%を合算したもので、これを簡略化したのが「3%+6万円」の速算式です(別途消費税)。なお2024年7月1日以降、800万円以下の「低廉な空家等」については、あらかじめ説明・合意したうえで税込33万円まで受領できる特例が設けられています。地方の空き家では通常計算より手数料が高くなる場合があるため、媒介契約前に必ず確認してください。
譲渡所得については、相続で取得した不動産は被相続人の取得時期と取得費を引き継ぎます。被相続人が長く所有していれば長期譲渡所得(所得税15%・住民税5%、別途復興特別所得税)として扱われます。一方、購入当時の契約書が残っていないと取得費を売却価格の5%として計算せざるを得ず、税負担が重くなることがあります。税額の判断は必ず税理士にご確認ください。
つまずきやすい5つのポイント
①遺産分割がまとまらない
「売って分けたい人」と「実家を残したい人」で意見が割れると、協議は長期化します。3年の登記義務期限に間に合いそうにない場合は、相続人申告登記という簡易な申出をすることで、申出をした人については義務を果たしたものとみなされます。ただしこれは義務を免れるための暫定措置であり、名義が移るわけではないため売却はできません。また、遺産分割が成立したら、その成立の日から3年以内に、遺産分割の内容に基づく相続登記(所有権移転登記)を申請する義務が別途生じます(不動産登記法76条の2第2項・76条の3第4項)。この義務を相続人申告登記で果たすことはできず、正当な理由なく怠ると改めて10万円以下の過料の対象となります。
②相続人に連絡がつかない・所在がわからない
疎遠な相続人や、面識のない甥姪が相続人になっているケースです。戸籍の附票から住所をたどって手紙を出す、それでも所在不明なら家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てるなど、段階的な対応が必要になり、その分時間がかかります。
③「とりあえず共有名義」にしてしまう
⚠️ 共有名義は売却を難しくします
とりあえず法定相続分どおりの共有で登記しておく、という選択は一見公平ですが、売却には共有者全員の同意(実印・印鑑証明書・決済への立会いまたは委任)が必要になります。一人でも反対すれば売れず、共有者の誰かが亡くなればその持分がさらに細分化し、次の世代では十数人の共有になっていた——という事態も起こります。売却を前提とするなら、遺産分割協議で代表者一人の単独名義にまとめ、売却代金を分ける(換価分割)ほうが、結果的に手続きも費用もシンプルです。
④境界が確定していない
土地の売買では、隣地との境界を明示することを求められるのが一般的です。境界標が失われていたり、隣地所有者との認識が食い違っていたりすると、確定測量に数か月かかることがあります。隣地が空き家で所有者と連絡がつかない場合はさらに難航します。売却を考え始めた早い段階で、測量図の有無を確認しておくと安心です。
⑤抵当権の抹消漏れ
住宅ローンを完済していても、抵当権の登記は自動では消えません。数十年前に完済した古い抵当権が残ったままの物件は珍しくなく、そのままでは売却できません。金融機関から交付された抹消書類が見つからない、金融機関自体が合併・消滅しているといったケースもあり、追加の調査や手続きが必要になります。抵当権抹消を含む不動産登記のご相談も承っています。
登記と売却の窓口が分かれると、二度手間になりやすい
相続不動産の売却でよくあるのが、「司法書士に相続登記を頼み、別に不動産会社を探して売却を依頼する」という進め方です。もちろん問題はありませんが、同じ戸籍や協議書の説明を二度することになったり、「登記は終わったが、売るなら本当は単独名義にしておくべきだった」と後から判明したりと、手戻りが生じることがあります。
本来、登記の設計は「売却の出口」から逆算して決めるべきものです。誰の名義にするか、代金をどう分けるか、いつまでに引き渡すか——これらは登記と売却をセットで考えて初めて最適解が出ます。当グループでは、司法書士めんたいこ法務事務所(相続登記・抵当権抹消)とめんたいこ不動産(売買仲介)が連携し、相続の相談から売却・引き渡しまで一つの窓口で対応しています。空き家の管理や売却でお悩みの方は空き家管理・不動産売却のページもあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 相続登記をしないまま売却することはできますか?
A. できません。売主は登記簿上の所有者である必要があるため、亡くなった方の名義のままでは決済まで進められません。相続登記は2024年4月1日から義務化されており、いずれにせよ必要な手続きです。売却を決めたら、相続登記を売却準備の一環として早めに進めるのが現実的です。
Q. 相続した不動産を売るまで、全体でどのくらいかかりますか?
A. 相続人の確定・遺産分割に1〜3か月、相続登記に2〜3週間、販売活動から契約・決済までに2〜4か月程度で、順調な場合で通常3〜6か月が目安です。遺産分割が難航する、相続人が所在不明、境界が未確定といった事情があると、さらに時間がかかります。
Q. 相続人が複数います。共有名義にして売ったほうがよいですか?
A. 売却が前提なら、共有名義はおすすめしにくいのが実務感覚です。共有不動産の売却には共有者全員の同意と手続きへの関与が必要で、一人でも足並みが揃わないと売れません。遺産分割協議で代表者一人の単独名義にし、売却代金を分ける「換価分割」のほうが手続きがシンプルに収まることが多いです。
Q. 相続登記の費用は誰が負担するのですか?
A. 法律上の決まりはなく、相続人間の話し合いで決めます。実務では、その不動産を取得する相続人が負担するケースや、売却代金から精算して残りを分けると遺産分割協議書に定めるケースが多く見られます。あとで揉めないよう、費用の負担方法まで協議書に書いておくと安心です。
Q. 売却したら税金はかかりますか?
A. 売却益(譲渡所得)が出た場合に、所得税・住民税がかかります。相続した不動産は被相続人の取得時期を引き継ぐため、被相続人の所有期間が長ければ長期譲渡所得として扱われます。相続した空き家の売却には3,000万円の特別控除など複数の特例があり、要件も期限も細かく定められています。適用の可否は税理士にご確認ください(概要はこちらの記事で解説しています)。
まとめ
相続した不動産の売却は、相続人を確定し、遺産分割で名義を決め、相続登記を済ませて初めてスタートラインに立てる手続きです。全体で3〜6か月程度を見込み、共有名義・境界・抵当権といったつまずきポイントを早い段階で洗い出しておけば、想定外の長期化はかなり防げます。費用は登録免許税・司法書士報酬・仲介手数料・印紙税・税金と多岐にわたりますが、内訳を先に把握しておけば手元に残る金額の見通しも立てやすくなります。
司法書士めんたいこ法務事務所では、戸籍の収集・遺産分割協議書の作成・相続登記・抵当権抹消までを一括で承り、グループのめんたいこ不動産と連携して売却・引き渡しまで一つの窓口でサポートしています。まずはご自身の状況を整理したい方は、無料の相続AI診断(約3分・匿名)もご利用ください。古賀市・福岡県内はもちろん、全国どこからでもオンラインでご相談いただけます。初回相談は無料です。